前回のATM横入り事件から、ふと思い出した『元祖横入り事件』
を振り返ります。
私が、中学3年生の話です。
高校受験に備えて、塾に行くことになりました。
その塾は、私の通う東中学と、隣の西中学との中間地点にあり、
塾の生徒も、東中と西中が、半分半分の割合でした。
5月頃から入塾し、6月になって、
西中の子の、顔と名前がやっと一致する頃。
その日も、いつものように友人Iと自転車で、塾に着いたのですが、
提出するはずの宿題を忘れてきたことに気付き、あわてて私だけ家に取りに帰りました。
授業が始まる前に、みんなでおしゃべりするのが楽しみだと言う友人Iに付き添い、
いつも10分以上は早く着いていたのだが、一度家に戻ればどんなに自転車ぶっ飛ばしても、
遅刻は間違いなかった。
宿題を取り、急いで塾に戻ると、もう授業ははじまっていて、
いつも私が座る友人Iの隣には、西中の女の子が座っていた。
ざっと見渡し、空いている後ろの方の席に座った。
西中の、確か、横山君。のとなり。
話したことはないけど、授業中に差されて、名前だけは、知ってた。
無事授業が終わり、宿題を提出してホッとしていたら、
「明日も来る?英語(の授業)」
と、隣の横山君に聞かれた。
「うん、くるよ。」
と、答えると、
「明日、俺、練習試合で来れんき、宿題でたら教えてくれん?」
と言うので、いいよ、と言った。
友人Iからの情報で、横山君が野球部だとは知っていた。
友人Iは、横山君にかぎらず、西中の子の情報をひと通りしっかりと把握していた。
今と違って、
個人情報だだ洩れ、プライバシーなんかあったもんじゃない時代の35年前頃、
塾の名簿というか、緊急連絡網のプリントが全員に配られていたのだ。
名前も、住所も、電話番号も。
携帯電話なんかない時代なので、もちろん家の固定電話。
友人Iは、その連絡網から西中の子に連絡して、よく遊びにいっていた。
私も何度か一緒についていったことがある。
次の日、当たり前のように出された英語の宿題を、横山君に教えるべく塾から帰ってすぐに連絡をした。
お母さんが出て、横山君はまだ帰って来てないらしい。
なので、宿題の伝言をお願いした。
次の塾の日に、
「宿題、(教えてくれて)ありがとね。」
と、私の横を通り過ぎながら、お礼を言われた。
隣にいた友人Iは、「なになに今の!」
なんてがっつり食いついてくる。
「ずるーーい!たかちゃんだけー!」と、ブーブー言ってたので、
「こないだたまたま隣に座っただけよ。」と言った。
少女漫画のような、いかにもなシチュエーションだったが、横山君は、部活が忙しいらしくそれからあまり見かけなくなった。
これも友人Iの情報からだった。
夏休みに入ると、塾も夏期講習や合宿などいつも以上にあわただしくなった。
横山君も部活を引退し、塾にもしっかりと来るようになってきていた。
1泊2日の合宿で友人Iは、横山君やほかの西中の子たちと更に仲良くなっていた。
「次に宿題知りたいときは、私に言ってね!って、横山君に言っといたから」
と、嬉しそうに言っていた友人Iだが、
その合宿の時に、同じ東中男子の中島君に、
「(友人)Iって、彼氏とか、好きな人おる?」
と、私はこっそりと聞かれていた。
「好きな人はわからんけど、彼氏はおらんよ。」
と教えてあげた。
と、ここまでを、夏休み明け、学校の同じクラスの仲のいい女子Nちゃんに話していた。
「Iちゃん、横山君のことが好きなんじゃない。」
と、Nちゃんが言っていたので、私もそう思うと言った。
それから少しして、塾の帰り際にまた、
「最近、Iから電話かかってくるんやけど。」
と、横山君が言ってきた。
「お前がかけさせよんか」と言うので、
それは違う!と強く否定した。
好きも嫌いもぜんぜんまだなくて、ただ周りのスピードが早すぎて、
私は、宿題を教える電話で、話せなかったな…とだけしか思ってなくて。
気が付くと変な空気になっていた。
そのことを学校で、友人Nちゃんにまた相談すると、
「私がIちゃんにハッキリ聞いてやる!」
と、カッコよく言うので、塾の連絡網を渡した。
次の日、登校すると教室の真ん中で、
「あのねー。西中に横山てる君って、おってねー♡友達になったんやけどさー。話がおもしろくって昨日1時間も長電話したー♡明日もかけていいっていうから今日もまたかけるー♡」
と、女子数人に囲まれてキャーキャー話しているNちゃんが目に飛び込んできた。
「あ♪たかちゃんおはよー♪あのねー。西中にねー。横山てる君ておってねー♡友達になったんやけどさー。昨日1時間も長電話したんよー。今日もまたかけるー♡」
と、デジャブ…
さっき周りの女子に話してた同じトーンで。
あれ。
横山君て、私の知らない人だったっけ…
そこから、一日中、横山君と話した電話の内容を1から10まで、何度も何度も聞かされた。
今なら、「そもそもIちゃんにハッキリ聞くつってなかったっけ?」
なんて聞けるかもしれないけど。
中学生当時の私には、突然で、衝撃すぎて、完全に思考がストップしてた。
なにが起きてるのか、全部夢なんじゃないかと。
本気で、思おうとしていた。
てか。私、本物の透明人間ですか?
なんてゆーか、まだ、好きとかそーゆーのも、思ってなかったし。
第一、会話したのも、ほんの少しだし。
電話で喋ったこともないし。
西中の男子が、横山、ピッチャーでモテるけど、女とあんま喋らん、て言ってたし。
塾で隣に座ったのも一回だけだったし。
でも、それから来る日も来る日も聞かされるNちゃんの横山君との会話内容を、
祝福ムードで聞けたことはなかったので、
気付いていなかっただけで、淡い恋心はあったのだと。
今なら、しっかりと認めてやろうじゃないか。
少ししてから、友人Iちゃんは、中島君と付き合うことになっていた。
横山君とNちゃんのその後は、しょっちゅう聞かされてはいたが、聞いているようで聞いてなかったので、
はっきりとは覚えていない。
仲良しなはずだったNちゃんとは、受験した高校が違い、そこから一度も連絡を取っていない。
県外に嫁に行ったと噂に聞いたが、元気にしてるのだろうか。
Iちゃんは、家が近かったので、たまに近所でばったり会うこともあったけど、相変わらずいつも明るく元気だった。
そうね。
恋は、早い物勝ちよ。
ぼやぼやしてたら、あなたは誰かのいい子になっちゃうよ。と、
リンダお姉さまの言う通り。
て、その前に35年ぶりに、言わせて。
ひと言だけ。
連絡網のプリント、返してくれん?
最後まで読んでくださりありがとうございます。
次回もお楽しみに。
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